たかがリューシの文才で

歌えない・踊れない 悲しい”社畜”の物語

12000円払って公衆の面前で写真を撮られよう

お待たせしました。

何とか3連休中に更新することができた。

本当に筆を早くしたい。

 

マッチングアプリを始めるには写真を載せなければいけない。しかし、俺は卒アルに一人だけ証明写真を載せるぐらい撮られるのが苦手だった。当然スマホには自分の写真はない。よってマッチングアプリは無理。

さてどうしたものかと思っていたが、 S 君が俺の写真を持っていると言うではないか。

そういえば、先月俺と S 君で四国に旅行に行った際、高知の桂浜はりまや橋で俺を撮ってくれたのだった。旅行で気分が浮ついていたので、何とかその有難い申し出を受けたのだ。

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ちなみにその旅行は俺がS君を誘ったのだが、細かいプランを立てておらず行き当たりばったりで、桂浜から戻った後はやることが無くなって晩飯までホテルで寝ていたりした。とても申し訳ないことをした。でも旬の炙り鰹はおいしかった。

 

とにかく、その俺の写真を見せてもらうと、やはりキッショイ笑顔で、服装も適当極まりないものではあったものの※「旅行好きですよ〜」というアピール(笑)にもなるので、とりあえず使い物にはなるだろうと判断した。

俺は S 君にその写真を送ってもらい、なるべく直視しないよう薄目でアップしたのだった

S君曰く『全体的にモコモコしてる上にから"お父さん"みたい』

ユ〇クロで安売りしてるチェックのネルシャツやらを適当に着てるからそうなる。

父親になるどころか彼女もいないのに……

 

さあ!なんとかかんとか写真とプロフ文が揃って最低限の体裁が整った。

残り10分で30人の女性に"いいね"を送らなければならない。

1人20秒だとプロフィールをいちいち読んでいる時間はないので、もう写真の第一印象で決めるしかない。やはりこの世は顔である

これを書いている今でこそ、前回の記事で説明した「コミュニティ」を使うことで趣味が合う女性を効率良く探せると知っているが、当時は気づけなかった。

なので俺は居住地や年齢などで絞り込み候補をかけた。候補に該当している女性の写真がずらっと出てくる。

 

ここで、正直言うと、少しショックを受けた。

年齢はプラスマイナス3歳でサーチしたのだが、結構、歳を取っているな……と感じたのだ。

読者諸兄は「手前もその29の立派なオッサンのくせして、何を偉そうに浦島太郎のようなことを……」と呆れるだろう。しかし、なにせこちとら、男子校~理工系大学(おまけにアニメ研)~メーカーというおちんちんの竜宮城で遊び惚けていたのだ。

普通の男性がクリスマスを彼女と過ごしている間に冬コミのサークルチェックをして、バレンタインにはソシャゲの特殊ボイスを回収していた。

身の周りの女性と言えば母親くらいしかおらず、摂取するのは二次元ばかり。他に観測する三次元の女性といえば、煌びやかな声優の方くらいだ。

つまり、普通の同年代の女性というものがピンと来ていなかった。なので、想像と現実のギャップにガーンときたのだ。

さながら、マッチングアプリという玉手箱を開けてしまったというところである。遅まきながら真剣で危機感を覚えた。

俺は半ば呆然としつつ、とにかく見た目が少しでも好みだと思った女性にいいねを押し始めた。

 

それにしても。自分のことを棚に上げ、次々に女性の顔を見てアリだナシだと選り分けていくというのは罪悪感が凄い。お前は一体何様なんだ?誰より一番醜いのは俺ではないか?そう思いながら次々とプロフィール写真をスワイプし、都度"いいね"を押していく。

心が折れそうだ。

そもこんなことに意味はあるのか?コピペの自己紹介に"いいね"を返してもらったところでなんになる?そこからメッセージのやり取りに漕ぎ着けたところで、やはりどこかで「実は小生、アニメを嗜んでおりまつ!w」と打ち明けねばなるまい。

というかオタク関連以外の話題がない。浅い人生しか送ってこなかったから。

すると、結局はお互い無駄なやり取りをする羽目になるだけでは?

そう弱音を吐く俺の尻をS君が叩く。

"いいね"をされた人数はプロフィールに表示される。これが少ないと、魅力に思ってる人が少ないっちゅうことやから、第一印象がもうアカン。せやからここで少しでも"いいね"を稼がなあかんのや」

なるほどそういうことか。だがS君よ、こちとらモテないからマッチングアプリに登録しているんだ。そんなにジャカポコ"いいね”が返ってくるもんなのか?

S君「いや知らん。マッチングアプリって基本的にはモテるポテンシャルを持っとるのに出会いがないっちゅう奴がやるもんやないか?

ぼく「…………ワァ…………ぁ…………」

S君「泣いちゃった!!」

俺は泣きながら30いいねを送り付けた。こんな"いいね"を送られた向こうも迷惑だろうが俺も辛い。許してくれ。

 

地獄のような作業の中にも面白いことはあった。俺と S 君で女性の見た目の好みが全然一致していないのである。

もともとそういう傾向があることは分かっていた。S 君とはコミケで回るサークルの分担もする仲であるのだが、

俺が高身長・ムチムチ・薄毛デカめ・太め・薄めのキャラが好きなのに対し(リアルを生きていない!)

S君は真逆で、低身長・スリム・剛毛低め・細め・濃いめのキャラが好きなのだ。

その他およそ性的嗜好と呼べる類のものは大体真逆である。俺の周りは貧乳好きばっかりだ。

しかし、これはあくまでキャラクターの記号の話である。それなのに、現実の女性の見てくれでここまで意見が食い違うというのは面白かった。

以前、「好きなアニメキャラがどうだからこうとか、別にそういうんじゃないから」と言った記憶もあるが、どうやらそうではなかったようだ。

ゼクシィのスタッフ、本当におそるべし。

まあ普通の人間は「芸能人で言ったら誰が好き」あたりの話題を通じて、そういうのは当然のことと認識しているのかもしれない。だが俺は芸能人に疎いのでそんな話はしたことはない。いや、綾瀬はるかの乳好きみたいな話はしたかも。

 

そんなことを話しているうちに通知が来る。

なんと、相手がいいねを返してくれたというではないか!

こんな俺でも箸にも棒にもかからないということは無かった。ホッと胸をなでおろす。

まあコピペしたプロフ文が良かったということだろう。やはりああいうのが受けるのか。

それに、何人かはメッセージもくれていた!

なんだよ、結構当たんじゃねえか……。

ただ課金はしていないのでその内容はわからない。

S君「よかったやん。どうすんの?課金すんの?」

ぼく「……思うんだけどね。やっぱりプロフィールはある程度正直に書きたい。少なくともオタクであることは事前に断っておきたいんだ。もちろんそれだけだと厳しいだろう。でも今さっき、見てくれで"いいね"するしないを繰り返した身としては、盛った写真さえ用意できればワンチャンGiant Killingもいけるんじゃないかという気がしてきたんだ。どうだろう?

S君「ワンチャンあるかは知らんけど、つまり、プロに頼もうっちゅうことやな」

ぼく「そうだ。12000円を払って公衆の面前で写真を撮られよう」(サブタイトル回収)

つまるところ、せっかく送ってもらったメッセージはガン無視することとなった。結局俺がやったことはただの"いいね"稼ぎである。だがこれはこういう状況からなし崩し的に有料会員登録させようとするペアーズのシステムもどうかなと思う。

 

マッチングアプリ用写真撮影代行サービス。

マッチングアプリにおいて生命線と言えるプロフ写真を、プロの手で撮ってくれるサービスだ。

俺は結婚相談所のイメージから、こういうのはスタジオを借りて撮るものだと思っていたが、街中や公園などの屋外で撮影してくれるサービスもあるらしい。こちらの方がスタジオ代が浮くぶん安いようだ。野外での季節感のある写真を撮影して、ナチュラルなモテる加工修正をしてくれるよ、ということらしい。心強いね!

それでも12000円というのは安くないが、あんなキッショイ写真でも"いいね"がチラホラ返ってきたのだ。

ならば、ここらで一発かっちょいい写真を撮って"いいね"がバンバン来れば、モテまくりの自己肯定感満たされまくりで写真嫌いも克服できるのではないか、という希望的観測も立つ(?)

まあ最悪万一の時の遺影に使えるなと思うことにした。骨は拾ってくれ。

 

尻を叩いてくれるS君がいるうちにそれ用のサイトに登録し、料金を支払って撮影の日程と場所を決定する。当日が雨天の場合に日をずらせる保険も掛けれたりもするらしいが、そこは12月初旬であることを考えて何もつけなかった。場所の選択肢は新宿駅や東京駅などしかなかったので第3希望までを適当に選んだ。

他には、撮ってもらう写真のイメージを希望できるらしい。その時の画面がこれだ(やっつけペイント編集)

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公衆の面前でこんなポーズをとって、そこをパシャパシャ撮られるのかと思うと今から眩暈がしたが、無難そうな正面・前身・横顔あたりを選んでおいた。

 

そして撮影当日を迎える。はたして無事に天気は晴れた。

場所は東京駅になった。普段は新幹線の乗り換えぐらいでしか来ない場所だが、下の行幸通りは赤レンガの駅舎が目に入るし、御覧のように自然もそこそこあるので、なるほど写真映えしそうである。

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上の画像は緑だが、当時は奇麗な紅葉だった。しかし人通りも多い。

近くのカフェの前が集合場所だったのだが、早めに着いた俺は既に落ち着きを失い、あたりをウロウロと歩き回る挙動不審のオッサンになった。

 

待ち合わせの時間に電話が来てカメラマンと合流する。

若い。

俺より余裕で若い。マスクだから顔はよくわからなかったが、もう雰囲気が陽キャだ。当然茶髪。ピアスすらしている。身長も俺より高い。ああ、俺の1万倍はモテる、別世界の人間だなと一目見て思った。0に何をかけても0だろとか言わない。

翻って俺ときたら、服装はいつものS君コーデなのはまだいいとして、髪は1200円カットである。撮影代の10分の1。

勿論ちゃんとした美容室に行くべきなのはわかっていた。ただ、あいにく先月カットに行ったばかりで、おまけに貧乏性を発揮してかなり短くしてもらっていた。どうしようもないのでセットで何とかごまかそうとしている状況である。

早くも帰りたくなってきた。既に十二分にしんどいのに、もしも撮影中に「撮る方と撮られる方、逆じゃない?w」なんて会話が耳に入ってきたら俺はその場で舌を噛み切って死ぬ。

カメラマンが撮るのはマジの遺影になるだろう。

 

それでも俺の緊張を和らげようとしてくれるのか、カメラマンは世間話を振ってくれる。心もイケメンか。完敗だよ。

年下に気遣われてしまった俺はこのカメラマンを信じることにした。というかこの人に縋るしかないのだ。若くてもプロだ。指示通りにしていれば、そう酷いことにはなるまい。

29のオッサンが下手に恥ずしがってモジモジしてみろ。それこそ地獄絵図だ。もう心を殺して機械になろう。俺は機械系の社畜だから出来る。

機械系の社畜じゃなかったら耐えられなかった。

命令には従うだけ  ボクは機械だから
ムダな感情  なんかいらない
それが正常なんだ

トキメキメカニカル
「オフロガ  ワキマシタ」

 

最初は丸の内仲通りで撮影が始まる。

休日は歩行者天国となっているようで、道路に机と椅子が置かれていて、子供用のブランコまである。あら素敵な場所。当然、家族連れがチラホラいる。カップルもいる。

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いきなり殺しにくるじゃん。

もうちょっと人通りの少ないところで慣らしてから行きましょうとか無いんか?

しかし俺は機械。心を殺して指示通りに動く。

椅子に座って、手を組んで、目線はどこで、ニコッと(ニチャッと)笑う。パシャリ。一丁上がり。笑顔が硬い?しょうがないっすよ機械なんだから。

次は立つんですね。ハイ喜んで。どっちの足が前で、重心がどうで、体をひねって、視線はそっちで、笑顔をニチャッ☆パシャリ。ハイもう一丁。

周りから「何?なにかの撮影?」なんてワードが聞こえてきてしまったのでカメラマンの指示に聴力を全集中する。アーアー聞こえない。

もう眼鏡も外させてもらっていいっすか?普段通りの眼鏡かそれともコンタクトを着けていくかを悩んだとき、S君から「そういうのは普段通りで行け」と言われたんすけど、もう視覚も遮断したいんす。

だって今の俺は傍から見れば歩いているポーズで静止して虚空を見つめてニチャっと笑っているオッサンですよ。

何も見たくねえ……。

それに、いくら普段通りとはいえ、この眼鏡はJinsのやっすい茶色フレームのブルーライトカット。そういえば会社の先輩から「オッサンくさく見える」と言われたこともあった。そんなストレートな罵倒あります?

カメラマンも、俺の奇行にちょっと(ちょっと?)戸惑ったようだが、「じゃあその眼鏡外しちゃいましょう」と言ってくれた。

よっしゃ。これで全てが曖昧な世界になった。リアルを生きなくて済む。

 

場所を移しながら撮影は続いていく。仲通りを離れるとそこまで人は多くなく、撮られるのにも慣れてきたのか、はたまた俺の心が本格的に壊れてしまったのか、そこまで辛くなかった。

 

行幸通り中央車線広場近くで皇居の堀を背景にキメ顔で撮ってもらったり。

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皇居外苑の芝生の上に座り「公園デート中で~す☆」っぽいシチュエーションで撮影されたり、

ベンチに座ってスマホを見ているポーズで「待ち合わせ中にこっそり撮られちゃった☆」シチュエーションで撮影されたりしてるうちに、俺もなんだかノリノリになってきてしまった‼

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いややっぱ辛えわ

なんだよこの拷問は。

29歳になってようやく彼女を作ろうとするとこんなピエロにならなくちゃいけないのか?

本当に勘弁してくれ。よりにもよって皇居の周りで。不敬罪だろこんなの。俺が。

 

最後に行幸通りに戻って撮影を行い(ここも人が多かった!)全行程が終わる。

地獄のような1時間だった。

1週間程度で写真を30枚程度に厳選して加工して渡してくれるそうだ。

憔悴しきった俺は最後に「盛りに盛って絶対にイケメンにしてくださいね‼‼」と難題を言い残す。素材がこれではカメラマンさんも困るだろうが、きっと何とかしてくれる。そう思わなくてはやってられない。

そうだ。金を払ってここまで苦しい思いをしたのだから、絶対にイケてる写真を餌に伝説上の生物:オタクに優しいギャルを捕まえてやる。

そして20代最後のクリスマスこそは性の6時間を迎えてやる。

固い決意股間を持って写真が到着する日を待とうではないか!

 

そう考えていた私は手の施しようのない阿呆だった。

 

次回「マッチングアプリで恋活をしたけど」

物語の終わりが近い。

 

 

え?まだ始まってすらいないのに?

 

いつも"いいね"を押してくれたり、温かい励ましのお言葉を送って下さってありがとうございます。

Thank you for  keeping the restroom clean.