時は11月末。俺が結婚相談所に行った週の花金。
俺はS君と反省会を行っていた。
場所は都内某所のジョナサンである。
ジョナサンといえばドリンクバーだ。お茶の種類が豊富で、ティーバッグではなく茶葉で淹れることができるのが素晴らしい。しかし、最近茶葉入れが金属製に変わり、お湯で熱くなって触りづらくなってしまった。前のプラ製に戻してほしい。
閑話休題。
以下反省会の内容である。
ぼく「ダメだったよ。半年間のデートでご両親への挨拶を済ませろというのはいくら何でもムチャクチャだ。ぼくがしたいのは、弾道が上がったり、超特殊能力が貰えたり、CGがギャラリーに保存されるようなキャッキャウフフなんだぜ。あんな入籍RTA in Japanをやりたいんじゃないんだ」
S君「確かに最初の町からフィールドに出たことすらない経験値ゼロの勇者サマにはハードルが高いかもしれんな」
ぼく「そうだよ。大体、君も同じところで相談していたんだから、『こういうスピード感だ』と事前に教えてくれていたらよかったんだ。さては、君もゼクシィスタッフの巧みな話術に騙されていた口だな?」
S君「まあ確かにそこはわかっとらんかった。確かにお前がついていけない世界のスピードやな。ただ、ほならどうすんねん。他に手はあるんか。今までも、お前が頼むからオタク街コンやら合コンやらについて行ってやったやろ」
そうなのだ。もう何年か前の話になるが、彼に頼んでオタク街コンについて来てもらったことがある。2対2のローテーションを回すタイプだ。
しかし結果は空振りだった。
いわゆる1次会が終了した後、「やりたい人は二次会行きましょう!」という流れだったのだが、S君は『フリーターばっかしやったな。まあ、もうこういうのはええわ』と参加するつもりはないようだった。
それを聞いた俺も、もう少し話を聞いてみたいと思った人はいたが「確かにわざわざ連絡をとるほどではないかな……」と日和ってしまったのである。
また、合コンにも呼んでもらったことがあった。
合コン自体はそれよりも前に、大学の同期とやったことはあるのだが、合コンしたくない大学ランキング1位も納得の濃い面子(控えめな表現)が俺含めて集まってしまい、もう、思い返すのも正直嫌なのだが、まあ大惨事になった。
俺が自己紹介をした後の「リアルを生きていない」というご尤もな指摘は、今でも俺のトラウマになっている。リアルってどうやったら生きれるんだ。
しかし、S君と合コンをやった時は、後日に女性の方から「あの場では言えなかったけど私もアニメが好きで……」と連絡が来たのだ!物好きもいたもんである。
しかし、彼女が好きだという作品が、よりによって拗らせ逆張りオタクが3話切りした作品だったので、なんと返そうかあたふたしているうちに向こうが察して身を引いてしまったという、しょうもない結末を迎えていたのである。
このあたりの積極性の無さは、今になっても変わっていない。
S君「何べんも言うとるけど、とにかくお前は女性経験を積まないかんのや。もし万が一お前の大好きなボインちゃんとお近づきになれるチャンスがあっても、そんな状態で口説き落とせるんか?お前は今『服を買いに行く服がない』状態なんやで?」
服選びを助けてくれるS君にそれを言われるとぐうの音も出ない。
ぼく「わかったよ……マッチングアプリに登録しよう(サブタイトル回収)」
マッチングアプリ。
それはガラケー時代には出会い系サイトと呼ばれており、アングラなモノだった。
実は俺も過去に下心バリバリで登録してみたことがあるのだが、どう見ても業者っぽいアカウントからアレなメッセージしか届かないのでまともに利用したことはなかった。
ただ、数年前からマッチングアプリと呼称を変え、かなり市民権を得ているように感じる。これが時代の変化か。
ただ、ひとえにマッチングアプリと言っても、アプリによって登録者の年齢層や利用目的が異なる。例えば利用目的をとってみても、婚活か、恋人探しか(恋活というらしい。知ってた?)、はたまた金銭目的か、という具合だ。なので、自分に合ったアプリを選ぶ必要がある。(下図参照)
しかし、今回俺が登録するアプリはすんなり決定した。それはペアーズである。
ペアーズと言えば、最近Twitterでも数人の絵師が案件漫画を描いているのを見た読者諸兄もいるのではないだろうか。確かに、このアプリはなかなか使いやすいのだ。一番は、"コミュニティ"というものが存在することによる。
これは登録者が作成できるグループのようなものであり、具体的には「旅行好き」「禁煙派」「アニメが好き」「男子校(女子校)出身です」「きのこ派」「ウマ娘やってます」「アークナイツ」など様々なものがある。
そこに加入することで、自己紹介文にあれこれ書かずとも価値観を示せるし、特定の作品が好きな人間を探しに行ける。
これだよ!俺がとら婚でやりたかったことはよ!
まあ結局はS君がこのアプリを使っていたことが決め手である。彼はそれで2,3人とお茶をして、それで飽きてやめてしまったそうだが。
もうなんでもかんでもS君頼りだ。俺と社会性を繋ぎとめている最後の綱である。ズッ友だョ……
料金は月3700円。あらかじめNヶ月分を纏めて課金すればいくらか安くなるという寸法だ。一応、有料登録せずとも、プロフィール作成や消耗品である"いいね"をすることで相手にコンタクトできる。ただ、有料登録しなければ相手から来たメッセージを読むことはできない。
ひとまず俺は無料会員のまま登録作業を進めた。結婚相談所のようにデカめの初期費用が掛からないところは良い。
さて、まずは自分のプロフィールを作成しなければならない。これが気が重いところだ。特に困るのが写真と自己紹介文だ。とりあえず、年齢や住まいや身長や年収やらの埋めやすいところから埋めていくことにした。
一応、身分証明書の登録を求められるので、年齢については嘘がつけないようだ。
ああ!29歳!
一方で、他の情報は盛り放題なことに気を付けなければならない。そして、ほとんど見ないが業者もいるにはいるようである。怪しい日本語でいきなりLINEの連絡先を送り付けてくる人もいたりした。特にプロフに「体系:グラマー」と書いているのは確率が高い。そんなんに釣られるわけがない。一応確認としてプロフの写真はチェックする。あくまで確認としてだ。
話はそれたが年齢以外は盛れるということで、俺は自分の身長を1cm盛って176で登録した。
S君「お前って身長確か175じゃなかt
ぼく「何が悪いか!174の奴は間違いなく175と書いているのだ!本当に175の俺はその分割を食っていると常々感じていた!だからここは断固として176なのだ!」
S君は心底どうでもよさそうな顔をしていた。
身長はあっても人権がないってそれ。
他にも実家暮らしか、独り暮らしかを入力する欄があった。
これは困った。
俺は29歳の子供部屋おじさんである。
S君「空欄にしとけ」
ぼく「はい」
空欄にした。
実家が結局一番楽 何もせんでもご飯出てくるし
お風呂あったかい 布団あったかい
昼に起きて朝に寝る生活!
8時に起こして! アニメ観るから!
前回と言い、ヤバイTシャツ屋さんによくよく縁があるがヤバイのは俺の人生である。
そんな感じで選択項目を埋めた。交際経験とか聞かれなくてよかった。
次は自己紹介文を書かなくてはならない。
しかし、ここである問題が発覚する。
ぼく「この”フィーバータイムの残り時間”というのはなんだ……?」
なんと、身長を1cm詐称したり子供部屋おじさんであることを隠蔽したりしている間は気づかなかったが、登録してから30分間だけ、30人の女性に”いいね”を送れるらしい。
先述したが、相手に好意があることを示す”いいね”は消耗品である。”いいね”をすれば相手に通知が行き、お互いが”いいね”を送りあって初めてメッセージのやり取りが可能になる、というシステムだ。つまり出会いに必須なアイテムである。
しかし、この”いいね”の初期保持数は雀の涙である。貯めるには有料会員登録やログインボーナスが必要になる。なのでこの貴重な30”いいね”は有効に活用しなければならない。
だが、自己紹介文も写真もないまま女性に"いいね"を押しても帰ってこないだろう。それでは意味はない。なのにフィーバータイムはもう残り15分を切っていた。
ぼく「ええっ!?15分弱で自己紹介文を書いて写真も上げて30人にいいねを!?」
S君「できらあ!」
ぼく「いや絶対無理でしょ。自己紹介文なんて何を書けばいいんだ。俺のリアルでない人生を振り返って、あるかもわからない女性受けの良い趣味とやらを探すのか!女性受けのいい趣味って何?ドライブとかか?あったとて、それをどうにかこうにか人様の目に触れさせられる形の文章にするのにどれだけの時間がかかると思っている!就活を思い出す!辛い気持ち!」
焦りとトラウマを想起したことでパニックになる俺に
S君「とりあえずネットで探したテンプレをコピペしとけ!」
ぼく「なるほど!」
S君は頼れる男だった。
そうしてできた自己紹介文が以下のものになる。
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はじめまして!プロフィールを見て頂きありがとうございます。
身の回りに出会いがないのでアプリを始めました!
【仕事】
都内でエンジニアをしています。
忙しい時期もありますが、職場の雰囲気はよく、大きなプロジェクトが無事に完遂して感謝のお言葉を頂いたときは達成感があります!
【趣味】
どちらかというとインドア派で、休日は映画を見たり本を読んだりすることが多いです。
でも、たまに友達と旅行に行っておいしいものを食べるのも大好きです!
【性格】
性格は明るい・ポジティブといわれることが多いです。
割と人懐っこいので、初対面の相手とも仲良くなりやすいタイプです。
彼女ができたら一緒に美味しいお店を探したり、まったり映画を観たりして楽しい時間を過ごしたいです。
最後まで見ていただきありがとうございます。
どうぞよろしくお願いします!
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誰?
という感じだが、とりあえず自己紹介文をクリアした。
最後に残るのは自分の写真。マッチングアプリで一番大事な要素と言っていいだろう。
所詮人間顔である。俺の場合は乳もあるが。それと金。
しかし、写真。俺は写真を撮られるのが大の苦手である。
こんなことがあった。
俺が母校を卒業する時分、「卒業アルバム用の写真を大学構内で撮るので、希望者は連絡をしろ」とお知らせが来たことがある。しかし、俺はそんなもの願い下げじゃいと希望を出さず、”ありもの”を提出して済ますことにした。俺の他にもわざわざ写真を撮られたがらない者は大勢いるだろうと思ったのだ。
はたして、完成した卒業アルバムは、他の同期全員が、私服で、構内の自然や建物をバックに、笑顔の自然体で写っているのに対し、俺が、俺一人だけが、スーツ・青一色の背景・真顔の就活用証明写真というとんでもないものになってしまった。
少し前、大学・会社が同じである既婚で子持ちのK氏の家に、S君含む会社の同期数人でお邪魔した。その際に卒業アルバムを皆で見たのだが、俺一人がめちゃくちゃ浮いて悪目立ちしており、統一感も台無しにしていた。卒業アルバムといえば一生モノの思い出アイテムである。皆笑っていたが引いていた。俺も引いていた。合コンどころか社会性が終わっている人間ランキング1位だ。
人生つれえわ死にてえー誰か俺を殺してくれ(ピイー↑)
こんな黒歴史すら持っている。というか、恐ろしいことに俺という人間が持つこの手のエピソードは枚挙にいとまがない。
当然、スマホに自分の写真など入っていないのであった。とりあえず写真以外の情報を登録だけしておいて、後から写真を工面しようと思っていたのが仇になった。
残りのフィーバータイムは10分強。果たして俺はマッチングアプリで"いいね"を送ることができるのか!?最早心配するべきはそんな些末事ではない気がするが、いい加減もう色々と辛いので、続きは待て、次回!
次回、今度こそ「12000円を払って公衆の面前でマッチングアプリ用の写真を撮られよう」の、はず。筆が進まないと「マッチングアプリで”いいね”をしよう」止まりかもしれない。とにかく2週間くらいで更新できるよう頑張りたい所存。
乞うご期待。
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